2017年 09月 01日
岡部倫太郎は誰を救ったのか?――『Steins;Gate 0』感想 |
そんな感じで『Steins;Gate 0』をプレイしました。
細かな世界線の考察などは他の方がやられているでしょうから、本稿では物語そのものについて主に触れていく。
以前にもブログに書いたが、私にとって『Steins;Gate』は「岡部はまゆりを選ぶが、それでも紅莉栖を捨てきれなかった物語」だった。
α世界線からβ世界線に進んでいく過程で、岡部は、鈴羽ではなくまゆりを選び、フェイリスではなくまゆりを選び、るかではなくまゆりを選び、そして紅莉栖ではなくまゆりを選んだのだが、それでも、岡部は紅莉栖を捨てきれずにシュタインズゲートに至った――というのが私の『Steins;Gate』観である。
おそらく多くの方との『Steins;Gate』とは変わりのない読み方であるとは思うが、ここで強調したいのは、岡部はまゆりを選び、紅莉栖を捨てきれなかったということであり、すなわちβ世界線の先にある未来を選んだというわけでも、シュタインズゲート世界線の先にある未来を選んだわけでもないということだ。結果として、β世界線にたどり着き、そしてシュタインズゲート世界線に至っただけであって、それはβ世界線がα世界線のようなディストピアであったからでも、シュタインズゲート世界線がβ世界線のような第三次世界大戦がないであろうからでもないと思っていた。
つまり、岡部にとっては、α世界線はまゆりが死に紅莉栖が生きている世界線であり、β世界線は紅莉栖が死にまゆりが生きている世界線であり、シュタインズゲート世界線はまゆりも紅莉栖も生きている世界線であり、それ以上でもそれ以下でもないはずである。その先の未来がどうであるかというのは、岡部にとっては重要ではなかったと言える。
岡部は世界の命運を左右する選択を強いられているというのに、極めてパーソナルな理由のみでもって、β世界線を選び、シュタインズゲート世界線に至ったのだ。この過剰なエゴイストを象徴するのが、白衣を着た狂気のマッドサイエンティストである鳳凰院凶真であろう。
確かに『Steins;Gate 0』は、β世界線からシュタインズゲート世界線に至るまでの物語であった。しかしそれは、紅莉栖がいる世界線――すなわちシュタインズゲート世界線であるが、岡部にとってはこれは重要なことではない――に至るものではなく、第3次世界大戦がない世界線に至る物語であった。
第3次世界大戦の端緒となる2011年の秋葉原、ソ連からの空爆を受ける日本、2036年のるかが死んでしまう日本――そういった世界という大状況を見せつけられることが象徴的である。岡部は「こんな世界になるなら」とシュタインズゲート世界線へたどり着こうとするのだ。
『Steins;Gate 0』において、岡部は紅莉栖を救うという極めてパーソナルな動機によってではなく、第3次世界大戦で死んでしまうであろう何十億人を救うという極めてなフォーマルな動機によって、岡部はシュタインズゲート世界線を目指そうとしている。
それは正しい動機なのかもしれない。シュタインズゲート世界線への到達は岡部一人の力によるものではない。ダル、真帆、鈴羽、そしてまゆり、彼らの力なくしては不可能であったものだろう。
その思いを乗せて――別世界線からのDラインを受け取ることがトゥルーエンドへのフラグになるのが示唆的である。岡部は別世界線の岡部の思いも背負うのだ――岡部はシュタインズゲートを開くのである。
しかしフォーマルな判断ができるようになった「大人」になった岡部が果たして過剰なエゴイストたる鳳凰院凶真を演じるのは滑稽でしかない。もうこの岡部は、「厨二病=大人になりきれない子ども」の象徴としての鳳凰院凶真を演じる必要もなく、またオペレーションを宣言する際に鳳凰院凶真を演じる必要もなく、そもそも厨二病くさいオペレーションを宣言する必要もない。そのフォーマルな判断には、「厨二病=大人になりきれない子ども」としての鳳凰院凶真は不釣り合いで、虚しいだけである。
『Steis;Gate』から『Steins;Gate 0』になり、岡部の動機は挿げ代わったようだが、しかし、中途半端でちぐはぐである。
前述したように、私は「岡部はまゆりを選ぶが、それでも紅莉栖を捨てきれなかった物語」として『Steins;Gate』を読んでいる。第3次世界大戦を回避するため、というのは不純な動機でしかないのだ。
アマデウス紅莉栖や椎名かがりはとても紅莉栖に似ていた。紅莉栖の代替可能存在である。そういった代替可能存在を振り切り、「他でもないあなた」として紅莉栖を求め、救う『Steins;Gate 0』であってほしかった。
早い話が公式との解釈違いってやつです。悲しい、マジで。
by 95Kogikuna
| 2017-09-01 22:26
| Steins;Gate 0